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2025年度日本実験力学会学会賞表彰 選考結果報告
2025年度日本実験力学会学会賞受賞者が選考委員会において決定しました.2025年度総会(2025年9月17日,龍谷大学瀬田キャンパス)において発表を行い,受賞者には表彰状と記念のメダルを送付いたしました.
(敬称略)
特別賞 (功績賞) 1件
千葉美麗(東北大学・講師)
授賞理由:千葉美麗 氏は,歯科矯正学および口腔生理学の分野において,約30年以上の長きにわたり先進的な研究を続けてきた.特に,歯周組織の細胞バイオメカニクスに関する研究では,メカニカルストレスが骨芽細胞や破骨細胞の分化と機能に及ぼす影響を明らかにし,歯科矯正治療の科学的基盤を築くことに貢献した.また,歯根膜細胞の力学的応答性や骨代謝マーカーの変動に関する研究の成果は,歯の移動メカニズムの解明に寄与し,歯科臨床応用への道を開いている.さらに,放射性物質の生体影響に関する研究にも取り組んでおり,福島第一原発事故後の環境放射能の影響評価において,野生動物の歯を用いた低線量被ばく推定法の開発を行っている.この研究は,東日本大震災後の東北地方における復興にも大きく貢献しており,社会的に極めて高く評価されている.
これらの成果は,現在まで国際的に評価の高い学術誌であるJournal of Dental ResearchやFrontiers in Oral Healthなどに原著論文として多数掲載されており,2025年3月までに公表されている査読付き論文の合計数は60編を超えている.特に,本会の学術論文誌である「実験力学」には,「卵巣摘出ラット脛骨のマイクロCT解析(実験力学 16(2),140-146,2016)」や「歯周組織のメカノバイオロジー−顎口腔領域の健康維持のためのバイオメカニクス−(実験力学 20(3),159-164,2020)」の論文が掲載されており,歯科分野における実験力学的アプローチの有用性を示す内容が公表されている.さらに,実験力学会年次講演会や実験力学会バイオメカニクス分科会においても,研究成果を数多く発表しており,歯学と工学の連携に尽力している.また,教育面でも,千葉氏は後進の育成にも尽力し,多くの若手研究者を指導してきた.その指導の下で,多くの学生が学位を取得し,研究者として活躍している.
日本実験力学会においては,2006年度から現在まで評議員に選出されている.2008年度から2018年度にかけては特任理事として,電子ジャーナル,投稿出版電子化を担当し,2019年から2020年までは学会副会長を務めた.さらに,多分野交流分科会の立ち上げに尽力するとともに,現在はバイオメカニクス分科会の幹事として,本会の中核的活動の1つである分科会活動においても大きく貢献している.このような学会活動の中でも特筆すべきことは,電子ジャーナルや投稿電子化に係る特任理事としての活動であり,和文と英文を問わず学会誌発展の礎は千葉氏によって構築されたものと断言できる.論文の投稿,査読,公開において,J-StageやEditorial Managerのシステムを利用することができる現状があるのは,千葉氏が奮励されたことが極めて大きい.
以上のように,歯学および歯科臨床と実験力学の連携分野における唯一無二の担い手として,千葉美麗氏の本会に対する寄与は甚大であり,学会運営にも多大な貢献をしており,その功績は,実験力学会の特別賞(貢献賞)に値する.
論文賞 1件
西村尚哉(名城大学),友松誠治(名城大学)
受賞論文:斜進入に対応した車両停止装置(自動車用λ型強制制動体)の構造の検討および制動性能評価, 実験力学 Vol.24, No.2, pp.59-67 (2024年6月)
授賞理由:本論文は,道路工事現場に一般車両が誤って侵入することを防止するために著者のグループが開発している,侵入車両を物理的に停止させるためのλ型強制制動体について,正面からの進入だけでなく実用上重要となる斜め方向からの進入に対し新たな構造を検討し制動性能を評価したものである.7本の腕が扇型に配置された新しい強制制動体を考案し,相似則に基づいた模型実験を用いて強制制動体の制動機構を詳細に調べ,車両が停止するまでの制動距離を予測する理論式を構築している.既存制動体では難しかった,正面から30度の車両斜め侵入の場合でも衝突車両を安全に停止させることが可能であることを明らかにしている.得られた知見は,効果的な強制制動体を開発する上で有用な指針を与えるものであり,極めて実用的である.
本論文は,力学的相似則を用いて車両衝突に関する模型実験を実施し,さらに理論解析によって検証して,強制制動体の開発における有用な知見を得ている.その手法は実験力学に基づくものであり,実用性,新規性,独創性の観点から,論文賞に値する.
技術賞 2件
李志遠(産業技術総合研究所),叶嘉星(産業技術総合研究所),遠山暢之(産業技術総合研究所),小椋紀彦(CORE技術研究所)
受賞研究:位相情報を利用したドローン空撮による橋のたわみ計測, 実験力学 Vol.24, No.3, pp.103-104 (2024年9月)
授賞理由:土木インフラの老朽化の管理は重大な社会課題であり,高精度かつ簡便に変位を測定できる技術が求められている.本技術ではドローン空撮とモアレ位相解析を組み合わせた橋梁変位計測法技術を新たに開発している.本技術は1/100画素の精度でドローン画像のぶれ補正ができ,サブミリメートルの精度でたわみ値を検出できる高精度な計測方法である.また,ドローンの6自由度の動きを4自由度に簡略化し,人間の内耳の平衡機能に着想を得た高精度な画像安定化技術を採用している点に新規性がある.
本技術は国内特許を出願し,国土交通省の点検支援技術性能カタログにも掲載され,橋梁のたわみの検査実務に活用されている.また,本技術はNature CommunicationsのEditors’ Highlights,Communications EngineeringのResearch Highlight,OpticaのOptics & Photonics Newsで注目すべき研究成果としても紹介されている.
以上のことから,本技術は学術的にも産業的にも価値が高く,技術賞に値する.
神尾ちひろ(群馬大学),相原建人(法政大学)
受賞研究:装着型計測システムを用いた日常生活における長時間人体挙動計測と定量評価, 実験力学 Vol.22, No.3, pp.187-194 (2022年9月)
授賞理由:日常生活における人間の挙動に関するデータは人体挙動の影響を受ける医療製品や工業製品の品質向上に大きく貢献することができる.本技術は,長時間連続計測可能で定量的な評価が可能な装着型計測システムの開発に関するものである.装置は極力小さく,またボタン電池一つで2日間の稼働が可能となっている.開発したデバイスを被験者の手首に装着し,腕の動きを約24時間連続して計測可能である.なお,デバイスに搭載されたセンサーにより,加速度,角速度,クォータニオンのデータが取得できる.
このような定量的なセンサーを搭載し,連続計測が可能な新しいウェアラブルデバイスの基礎となる装置の開発については,今後の医学的・工学的のみならず,日常生活でも利用可能となることが想定され,技術賞に値する.
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