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2012年度日本実験力学会学会賞表彰 選考結果報告
2012年度日本実験力学会学会賞授賞者が選考委員会において決定いたしました.2012年度年次講演会総会(2012年7月14日(土),豊橋技術科学大学)において表彰式を行い,授賞者には表彰状と記念のメダルが贈呈されました.
(敬称略)
特別賞 (西田賞)1名
梅崎 栄作 氏(日本工業大学)
授賞理由:
梅崎栄作氏は,日本実験力学会設立時に学会誌の構想・編集・発行などに尽力するとともに,本学会の理事,副会長,会長として永く本学会の発展運営に寄与してきた.また,梅崎栄作氏は画像処理とコンピュータを光弾性法解析に導入した「デジタル光弾性法」の研究を行い,主応力差や主応力方向の位相接続について独創的な方法を考案している.このように,梅崎栄作氏の実験力学分野における独創性かつ有用性のあるデジタル光弾性法についての研究および実験力学分野における学術・技術の進歩,発展・向上における功績は大であり,これらの功績は西田賞(光弾性学分野の功績賞)に値する.
略歴
1974年 | 関東学院大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程修了 |
1974年 | 日本工業大学助手(工学部機械工学科) |
1984年 | 日本工業大学専任講師(工学部機械工学科) |
1991年 | 日本工業大学助教授(工学部機械工学科) |
2000年 | 日本工業大学教授(工学部機械工学科) |
学会活動(抜粋)
2001年1月〜2010年8月 | 日本実験力学会 評議員 |
2001年1月〜2008年7月 | 日本実験力学会 理事 |
2008年7月〜2009年8月 | 日本実験力学会 副会長 |
2009年8月〜2010年8月 | 日本実験力学会 会長 |
受賞歴(抜粋)
1997年 | 日本非破壊検査協会奨励賞 |
1997年 | 日本光弾性学会論文賞 |
1999年 | 日本非破壊検査協会論文賞 |
論文賞 2件
植田 芳昭(北海道大学大学院),井口 大亮((株)悠心),石井 俊夫(JFEスチール(株)),井口 学(北海道大学大学院)
授賞論文:Occurrence Process of Jet-Induced Rotary Sloshing in a Cylindrical Container, J. JSEM, Special Issue, Vol.10, pp.1-6, (2010).
授賞理由:
本研究は液体を満たした円筒容器底部から噴流を吹き込むことによって生じる回転スロッシングについて,その物理過程を理論的に解明し,その工学的応用の具体的事例を示している.本論文では特に静止状態から噴流を吹き込んだ場合における回転スロッシングの発生メカニズムを検討するためにスロッシングが発生する過程を数値計算によって模擬した.その結果を検討してスロッシングの発生に関する解析モデルを理論的に構築し,実験結果と比較して,その理論予測の妥当性を明らかにしている.本論文は独創的でかつ工学的意義が極めて高く,論文賞に値する.
坂井 建宣(首都大学東京),上野 宗一郎,山田 幸一,宗宮 詮(慶應大学大学院)
授賞論文:ポリアセタールの結晶状態を考慮したクリープ解析,実験力学,Vol.9, No.4, pp.388-394, (2009).
授賞理由:
通常,同じ高分子材料は同じ粘弾性挙動を示すことが言われているが,本論文においては結晶粒径のみを制御することにより粘弾性特性が大きく変化することが示されている.従来,粘弾性挙動を制御するためには利用環境に合わせた分子構造などの設計が必要とされていたが,本論文により粒径制御のみで粘弾性挙動を制御可能となり,実用においても大幅なコスト減が見込まれる.また,結晶化度を調整した場合のクリープ挙動についても線形粘弾性理論に基づき変形予測を可能としており,材料設計の観点から新規性があり有用である.本論文は実験力学的に極めて優れた研究と認められ,論文賞に値する.
技術賞 2件
幕田 寿典(山形大学),玉川 幸菜,遠藤 純
授賞研究:Hollow Microcapsules Fabricated from Microbubbles Containing Cyanoacrylate Vapor,Proc. 6th ISEM, Paper No. 104, (2011).
授賞理由:
人体組織の接着に用いられるシアノアクリレートモノマーを蒸気化し,超音波で瞬間的に水中にマイクロバブルとして供給することで2〜3μmの中空マイクロカプセルを容易に多量に生成する技術を開発した.毛細血管を通過可能な寸法で生体適合性があり超音波の音響特性にも優れているため,超音波診断の造影剤として利用できるだけではなく,流体計測用のトレーサや断熱・防音性の工業材料としても利用できる.このように,本技術は工業的にも有用であり,技術賞に値する.
脇本 辰郎(大阪市立大学大学院工学研究科),加藤 健司(大阪市立大学大学院工学研究科),東根 光善
授賞研究:微小な接触角の差を検出する光学的手法の開発,実験力学,Vol.9, No.4, pp.324-329, (2009).
授賞理由:
様々な技術分野で濡れ性の指標となる接触角の簡便で精度のよい計測法が望まれている.本技術は機能性を持つSAMs膜表面の品質を接触角の微小な差から検出するために開発された.固体面を接触角と同じ角度に傾けて試料液に浸すと液面は水平となる.液と物体面の接触点にレーザ光を照射し,反射光の変位から接触角の微小変化を高精度に検出できる.本技術を用いてSAMs膜の分子レベルの表面劣化を精度よく検出することに成功した.この簡便・巨視的な微小接触角検出手法は,技術賞に値する.
奨励賞 3名
酒井 祐介 氏(北海道大学大学院)
授賞研究:Behavior of a Droplet on an Inclined Plate under Various Wettability Conditions, J. JSEM, Special Issue, Vol.11, pp.26-31 (2010).
授賞理由:
撥水性の固体壁上に衝突する液滴の動的挙動について,高速度カメラを用いた可視化実験と,数値シミュレーションによって検討した.様々な液体を用いた実験から,反発係数と液滴の扁平率の関係を表す実験式を提案している.実験と数値シミュレーション結果は良好な一致を示している.また,平板の接触角が大きくなるに従って液滴は個体球の動的挙動に近づくことを明らかにした.実験と数値解析の研究手法を駆使して当該分野における新しい発展をもたらした研究は,奨励賞に値する.
山口 勝弘 氏 (大阪大学大学院)
授賞研究:Liquid Immiscibility of Fe-Ag-Cu-B System, Proc. 6th ISEM, (2011).
授賞理由:
鉄スクラップに由来するCuは鉄鋼製造において有害かつ除去の困難な元素である.BをFe相に添加することによりFe-Ag間のCu分配比が上昇することに着目して,B添加の熱力学的影響を1873,1523 Kにおいて調査し,溶鉄から効果的にCuを分離できることを示した.さらに,Fe-Cu-B系の熱力学パラメータを決定し,溶鉄中Cuの分離効果を定量的に明らかにした.これらの成果は,今後の発展が大いに期待でき,奨励賞に値する.
小柳 潤 氏 (宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)
授賞研究:樹脂の非弾性構成式を考慮したCruciform試験法によるガラス繊維/樹脂界面の界面強度評価, 実験力学,Vol.10, No. 4, pp.407-412 (2010).
授賞理由:
複合材料の機械的特性において重要であり,不確定要素であるガラス繊維と樹脂との接着界面強度を実験的に評価するために,本研究ではCruciform試験法による界面強度測定に非弾性構成則を新たに導入して正確な評価に成功している.一方で,高応力域での樹脂の非弾性構成則を考慮した有限要素解析を用いて,接着強度を正確に評価している.これらの成果は,今後の発展が大いに期待でき,奨励賞に値する.
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