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2011年度日本実験力学会学会賞表彰 選考結果報告
2011年度日本実験力学会学会賞授賞者が選考委員会において決定いたしました.2011年度年次講演会総会(平成23年8月31日,奈良県文化会館)において表彰式を行い,授賞者には表彰状と記念のメダルが贈呈されました.
(敬称略)
論文賞 2件
加藤 章(中部大学),ティン・アウン・モー,河村悟史
授賞論文:レーザを用いた疲労損傷の全視野可視化と評価,実験力学,Vol. 9, No. 4, pp. 369-375, (2009).
授賞理由:
著者らは,これまでレーザのスポット光を金属材料表面に照射し,その反射光により静的なひずみの大きさあるいは疲労損傷の程度などを簡便に評価する方法を開発してきた.本論文ではレーザのスリット光を測定対象表面上で走査することにより全視野の疲労損傷の可視化,疲労個所の検出および疲労損傷度合いの評価などが同じ光学系で実現できることを示している.この材料強度評価法は静的な塑性ひずみ分布の大きさあるいは疲労損傷の分布の評価などに応用できると考えられ,非常に有用な手法である.本論文はその基礎的研究結果を纏めたものである.本論文は独創的でかつ学術的意義が極めて高く論文賞に値する.
藤松 信義(東洋大学),三栖 功
授賞論文: 乱流組織運動を考慮したVITA法および4象限解析の改良, 実験力学,vol.10,No.1, pp. 82-88, (2010).
授賞理由:
壁乱流において渦と関連した秩序構造が観察され,その特徴的な挙動としてバースト現象の存在が知られている.複雑な乱れを含む速度場から秩序構造を抽出し,乱流の構造を解明できる精度のよい検出方法が望まれている.本論文は,速度変動に対する高精度の実験結果に基づき,従来のバースト現象抽出法であるVITA法と4象限法の発展改良を試みている.著者らの提案するQVITA法とQVburst法は乱流渦運動の正確な抽出を可能にしており,様々な乱流場の構造解明への寄与が期待される.また,本論文の成果は著者の優れた実験技術と膨大な測定結果の解析に基づくものであり,実験力学的に優れた業績と認められるので論文賞に値する.
技術賞 2件
新川 和夫(九州大学大学院),古川 太一 (大阪大学大学院),森田 泰之(名古屋大学大学院),内野 正和(福岡県産業・科学技術振興財団),貝田 博英(福岡県工業技術センター)
授賞研究:Micro-focus X線CT画像を用いた光重合型コンポジットレジンの収縮計測
(1) Micro-focus X線CT画像を用いた光重合型コンポジットレジンの収縮計測,実験力学,vol.9, No.2,pp. 115-120, (2009).
授賞理由:
著者らは,マイクロフォーカスX線CT,画像相関法ならびに3次元位置補正アルゴリズムを応用することにより牛歯窩洞内における光重合コンポジットレジンの微視的収縮変位を定量的に評価し,さらに,3次元画像処理を応用することにより,窩洞内レジンのひずみ解析法を開発している.窩洞内における収縮変形は歯科臨床において重要であるにもかかわらず,その定量解析は国内外においても稀な例であり,計測技術的にも意義深い.以上述べたように本技術は技術賞に値するものである.
西岡 俊久(神戸大学大学院),藤本 岳洋(神戸大学大学院),若林 正彦
授賞研究:定常温度場のインテリジェントハイブリッド計測法に関する基礎研究
(1) 定常温度場のインテリジェントハイブリッド計測法に関する基礎研究,実験力学,vol.6, No. 4, pp. 457-463 (2006).
授賞理由:
著者らは,ハイブリッド法について多数の論文を発表している.光応用計測では実験計測誤差やノイズが含まれる場合が多く,データ処理結果に誤差が多くなる傾向がある.これを解決するために著者らは誤差最小化変分原理を開発して,誤差やノイズを自動的に検出し消去するインテリジェントハイブリッド法を開発した.この方法では,場の支配方程式を満足する正解の場が得られる.このため固体力学ではひずみ応力の正確な値が求まる.また,熱伝導場では今まで可視化できなかった熱流束を正確に表示できるようになった.これにより,き裂先端に熱流束の特異性があることも発見した.この性質は非破壊検査法として有用な性質を持っている.以上述べたように本技術は技術賞に値するものである.
奨励賞 2名
植田 芳昭 氏(北海道大学大学院)
授賞研究:濡れ性の影響を含めた動的な固気液界面の挙動に関する研究
(1) Y. Ueda,Y. Sakai, M. Iguchi, Horizontal Entry of a Superhydrophobic Circular Cylinder into Water, Proc. 5th ISEM, Kyoto, Paper No.29, (2010)
(2) 植田芳昭,横山奨,石井俊夫,井口学,鉛直管内に設けられたオリフィス近傍での単一上昇気泡に関する2次元数値シミュレーション,日本実験力学会論文集,9巻4号,pp. 345-350, (2009)
(3) Y. Sakai, Y. Ueda, T. Ishii, and M. Iguchi, Behavior of a Droplet on an Inclined Plate under Various Wettability Conditions, J. JSEM, Special Issue, vol.10, pp. 26-31, (2010).
授賞理由:
植田芳昭氏は,濡れ性の影響を含めた動的な固気液界面の挙動に関して高速度カメラを用いた実験と数値シミュレーションによって精力的に研究を行っている.特に,撥水剤を塗布した有限長さの円柱が水面に対して水平に侵入した崔に形成されるキャビティに関して,その分裂パターンは二通り存在することを明らかにし,キャビティ分裂に関する三次元性を指摘した.これらの研究成果に基づいて,これまで二次元的に解析されてきたキャビティの動力学において,表面張力が支配的な三次元問題として扱う必要性を指摘している.実験と数値解析の研究手法を駆使して当該分野における新しい発展をもたらした研究は奨励賞に相応しいものである.
崔 題恩 (Je-Eun CHOI) 氏 (千葉大学大学院)
授賞研究:マイクロチャンネル内のマイクロ粒子の誘電泳動に関する実験計測に関する研究
(1) K. Oshii, J. E. Choi, H. Obara, M. Takei, Measurement of Dielectrophoretic Velocities of Microparticles in a Microchannel, J. JSEM, Special Issue, Vol. 10, pp. 79-84, (2010).
(2) J. E. Choi, M. Takei, K., D. H. Doh, Fabrication of microchannel with 60 electrodes and resistance measurement, Flow Measurement and Instrumentation, Elsevier, vol.21, issue3, pp. 178-183, (2010)
(3) J. E. Choi, M. Takei, K., D. H. Doh, Proposal of Resistivity Distribution Tomography, Measurement method of Two-Phase Flow in Microchannel for Heat Exchanger, 日本冷凍空調学会論文集, vol.127 No.2, pp. 179-188, (2010).
授賞理由:
崔題恩氏は,MEMS技術を用いてマイクロチャンネル内に多数(60個)の電極を製作することに成功し,それを用いてマイクロチャンネル内に三次元的に計測することと,誘電泳動力を発生させることに成功したことを出発点としています.この実験技術を用いてマイクロチャンネル内の混相流の分離・分級・混合を行うマイクロリアクターの創製を可能にしている.その基礎的な実験として粒子径,周波数,電位をパラメータとして移動速度を顕微鏡とPIVを用いて計測し,マイクロ固液二相流の優れた基礎データと応用の可能性を示唆した.この創造性に富んだ研究成果は奨励賞に相応しいものである.
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