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The Japanese Society for Experimental Mechanics
日本実験力学会
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実験力学の新たな発展を目指して
− 会長就任にあたって −

日本実験力学会  会長   鈴 木 新 一 



 日本実験力学会は2001年に,それまでの光弾性学会を母体として創設されました.学会創立当初,「実験力学とは何か?」ということが議論され,幾つかの見解が出されました.最も多かったのは,「固体の応力やひずみを計測すること」との見解です.光弾性学会を母体として出発したことを考えれば,当然のことかもしれません.
 構造用材料に力を加えても材料はほとんど変形しません.これは,材料のひずみがとても小さいことを意味しています.したがって,材料のひずみを精度良く測定することは,決して簡単なことではありません.実験力学は,固体の微小な変形やひずみを,精度良く測定することを目的として発達してきました.
 しかし,実験力学には,単なる計測技術の開発以上の意味があるように思えます.実験力学は,材料のひずみや破壊を測定しますが,それは,橋梁,トンネル,航空機,原子炉などの巨大構造物や社会基盤の安全性に直結した問題です.そしてその向こうには,構造物を利用する人達の生命の安全を保障する問題があります.この点が,実験力学を単なる計測技術以上のものにしている様に思えます.
 現代の日本では,高度経済成長期に建設された社会基盤の老朽化が指摘されています.そして2011年3月11日の東日本大震災以降,社会基盤の安全性確保が重要な課題となっています.その意味で,材料の応力・ひずみ・破壊の計測を中心課題の一つとしている実験力学の役割は,とても重要になってきています.そして,社会基盤の安全を保証する科学技術の確立は,実験力学抜きには考えられないでしょう.
 実験力学が社会基盤の安全保障と密接に関連していることを考えると,構造物に対して巨大な力や衝撃的な力を作用させるメカニズムにも目を向ける必要があります.固体同士の衝突は材料に衝撃的な力を発生させますが,高速流体や衝撃波も構造物の破壊を引き起こす大きな要因となります.東日本大震災で発生した津波は,地震そのものよりもはるかに大きな被害をもたらしました.また,2013年2月にロシアに落下した隕石は,衝撃波による被害をもたらしました.実験力学が社会基盤の安全保障という役割を果たしていくためには,固体のひずみや破壊の計測だけでなく,破壊的な力を生み出す流体運動の計測と解明も重要な課題となってきます.
 さて,この様な実験力学の研究が実際の社会の中で生かされていくためには,今後,建設工学分野との連携が必要であろうということが直ぐに分かります.そのため2015年度は,建設工学を専門とする長崎大学の松田浩先生を副会長の一人にお迎えしました.実験力学会には,機械工学分野の研究者が多数所属していますが,社会基盤の安全保障という観点で見た時,建設工学分野の研究者の参加が望まれます.松田先生には実験力学会と建設工学分野との連携にご尽力頂き,実験力学会の新たな分野が開拓されることを期待したいと思います.
 また,社会基盤の安全は,そこで活動する人々の安全を目的としています.そのためには,人体損傷や再生,細胞増殖に代表されるようなバイオメカニックス分野の研究も不可欠です.実験力学会には2名の副会長がいますが,2015年度の筆頭副会長に,バイオメカニックスと固体力学の両分野で活躍されてきた格内敏先生(兵庫県立大)をお迎えしました.今後,バイオメカニックス関係の研究者の増加と更なる活躍が期待されます.
 実験力学会創設当初,「実験力学とは何か?」という議論があったとき,「今後の活動と発展によってその意味が決まってくるのではないか」との意見も出されました.その時から十数年が経過し改めて振り返ってみると,2011年の東日本大震災が実験力学に対して社会基盤の安全保障という古くて新しい役割を再度与えている様に思えます.
 勿論,実験力学の研究が全て社会基盤の安全保障に統一される訳ではありません.学術研究は,本来,研究者個人の自由な発想に根差すものであり,それが新たな分野の出現と継続的な発展の原動力になっています.そして学会とはその様な研究者の集まりなのでしょう.実験力学会が会員一人ひとりの自由な研究を促し,より良い研究発表の場を提供し,そのうえで,社会基盤の安全を保証する科学技術の確立の様な社会的要請に答えられるようになれば良いと思います.1年間の短い期間ですが,その様な学会に近づけるよう会員の皆様とともに力を尽くしたいと思います.どうぞ宜しくお願い申し上げます.




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Last Updated September 9, 2015