日本実験力学会の将来展望
−融合と進展−
日本実験力学会 会長 松井 剛一
実験手段・計測技術の進歩と新実験事実の発見とを両輪とした「実験力学」を掲げ,材料や構造物の静的・動的力学挙動の実験的解明から「実験力学」のさらに広い分野,光学以外の実験的手法も取り入れ内外との交流も視野に入れた「日本実験力学会」が発足して早や5年が経過しました.先輩会長のご努力により,この間に,固体分野に加えてバイオ分野、流体分野,環境分野などの学問分野の会員が増え,分科会活動をはじめ学会賞表彰、顧問会設置,講習会開催など学会活動も活発になってきました.また,本会の運営も,日本学会事務センターの破産による被害に遭いましたが,森本前会長をはじめ理事のご努力によりそれには影響されず安定しています.従いまして,これまでは本会の育成期であり十分に熟成した,これからはさらなる発展に向けて芽を出す時期だと考えられます.
こんな重要な時期に,はからずも岡村,隆,森本各先生の歴代会長に続き,会長をお引受けすることになり,私の身に余る光栄であります.会長に選ばれたことは,私のこれまでの経験を生かし本会の発足目標を達成に導くよう求められてのことだと考えています.また,私はこれまでの歴代会長とは専門分野が異なり,流体分野であります。このことも本会の発展に寄与できると判断されてのことだとも考えています.
今後の活動は、歴代会長の路線を引き継ぎ,SEMなどとの国際会議の連携ならびに固体・材料分野に加えて新しい分野も含めた独自の国際会議を持つことも重要であります.これは今年実現の運びとなりました.また,新しい活動それも会員にとって有益な活動,それに会員の増強,さらには本会の存在価値の向上,「実験力学」の社会への紹介と啓蒙,産学連携など,本会の活動を活発化させ充実させていくシーズは沢山あります.これらを一つずつ実現させてゆきたいと思っています.
これまで準備をしてきました「実験力学ハンドブック」,「よくわかる実験技術・学術用語」の出版も今年可能になりました.「学会賞」に加えて実験力学分野の「称号授与」も実現の運びとなりました.これらの事業により講習会をはじめ本会ならびに社会への貢献に役立つものと期待しています.さらに進んで実験力学計測・解析技術の向上と適用範囲の広がりをもって,本会の社会的貢献にどう生かすか,会員の皆様からのアイデアのご提案をお待ちしています.
また,産業界との連携もまた非常に重要な事項です.本会が中心になって産業応用に寄与できるよう図ってゆきたいと思っています.本会会員の研究成果の発信については,会誌に加えて論文誌の電子ジャーナル化が欠かせないと考え,その実現性を探っています.さらに,実験力学分野で活躍する若い学生会員諸君の国際活動支援も「優秀講演賞」に加えて重要であると考え適切に対応することにしています.これらの多くの作業および事業の実現はボランティア的な担当理事および担当者のご努力によるものであり,大変感謝いたしております.
発足当初,「実験力学」はあらかじめ定義せず,また活動範囲も限定せずに活動してきました。しかし,固体・材料分野以外の会員が増えるにつれ「実験力学」とは何か,ということは常に議論の対象になってきました.これは本会の発展と活動の成果によって,その意味が決まってくるのではないかと考えています.会員皆様の今後の活動ならびに数多くの学問分野の会員が増えること により自然に定義されていくことでしょう.
以上のような発展的活動の基,引続き関連する学協会と横断的連携を図るとともに,学問的異分野の会員の間での融合を図り,勢いをつけて本会を発展するよう目指したいと思っています.本会の今後の発展のために寄与できますよう,会員の皆様のご鞭撻とご協力を切にお願いいたします.