西岡俊久 (神戸商船大)、藤本岳洋 (神戸商船大)
Toward the Developments of Intelligent Hybrid Methods for Full-Field Measurements
T. Nishioka and T. Fujimoto
Kobe University of Mercantile Marine
In our previous studies, the authors derived various variational principles minimizing the corresponding experimental measurement errors. Using these variational principles, the authors developed various intelligent hybrid experimental-numerical methods. In this paper, a brief summary of these developments is presented.
1.まえがき
構造物や機械の重要部分の破壊防止や稼働状態の把握のためには,そこの変形・応力状態を実時間的に直接,評価することが最も確実な方法の一つである.それもできれば,非接触で,かつその部分の全視野計測でモニターが,しかも実際には計測できないひずみエネルギー密度や応力拡大係数,応力集中係数などもモニターができれるようになれば,面白い.
この問題に対し,本研究者らは,光応用実験と数値解析法を結合させたハイブリッド実験・数値法を開発した(1)(2).このハイブリッド実験・数値法では,まず実験から得られたモアレ干渉縞像について画像解析処理・変位場の計測を行う.この計測により得られたデータが,既知変位成分として,有限要素法計算に入力される.しかし,この計測データに実験計測誤差やモアレ干渉縞解析誤差が含まれていた場合,ハイブリッド解析結果に乱れが生じることになる.とくに変位の微係数と関係するひずみや応力分布では誤差の影響が拡大される.
上記の問題を解決するため,本研究者ら(3)(4)は,はじめに弾性変形域に対し実験計測誤差を最小化する変分原理を導出した.次にこの変分原理をもとに,インテリジェントハイブリッド法を開発し,弾性変形場に対して,その有効性を実証した(5)(6).インテリジェントハイブリッド法では個数,場所,大きさなどが不明な実験計測誤差やノイズが自動的に検出・消去される.また,弾塑性変形場に対しても,増分形の実験計測誤差最小化変分原理を導出し(7)(8),これに基づき,非線形変位場に対するインテリジェントハイブリッド法を定式化して,弾塑性変形場に対しても,その有効性を実証した(9).
さらに,定常熱伝導温度場に対するインテリジェントハイブリッド法の基礎となる実験計測誤差を最小化する変分原理の導出を行っている(10).また,界面き裂問題(11)や三次元問題(12)に対してもインテリジェントハイブリッド法の有効性を示している.
本論文では,これまでの著者らの全視野ハイブリッド計測法のインテリジェント化に向けての開発および研究成果を概説する.なお,一般的ハイブリッド法については,著者(13)-(16)による一連の最近の解説がある.
2.実験計測誤差最小化変分原理
ここでは,非線形弾塑性変形場に対する実験計測誤差を最小化する増分形変分原理(7)(8)を説明する.いま,ハイブリッド解析の領域をVとすると,仮想仕事の原理は次式で表される.
(ただし,
) (1)
ここに,およびはそれぞれ表面力および体積力である.また,は( )の既知量を,そしてSt
およびSuはそれぞれ表面力,変位が与えられたハイブリッド法境界を表す.さらに,,は応力およびひずみを表す.
非線形弾塑性解析のために,変位場,ひずみ場,応力場を次のように増分形で表す.
, ,
(2.a,b,c)
ここに( )oは,前ステップの量,D(
)は増分量である.
さらに,実験計測で得られる変位場をとし,一般に誤差やノイズが含まれているものとする.この場合,はつり合い方程式を必ずしも満足していない.そこで,修正すべき変位場を で表すと,正解の変位場ひずみ場,応力場は次式で表される.
, ,
(3.a,b,c)
以上をまとめると,正解の変位,ひずみ,応力は次のように表すことができる.
, ,
(4.a,b,c)
式(4.a,b,c)を式(1)に代入して整理すると,修正場に対する増分形の変分原理が次式のように得られる.
(5)
さらに,上式に発散定理を用いると,修正場に対する変分原理を次式のようにも表すことができる.
(6)
ここに,njは境界上の外向き方向余弦である.
いま,説明を簡単にするために前ステップでの残差不平衡力がゼロになっているものとする.すなわち,
and
(7.a,b)
が成立しているものとする.そして,特別な場合として,実験計測場が平衡条件式および力学的境界条件式を完全に満足している場合を考えると,次式が成り立つ.
and
(8.a,b)
式(7)-(8)より,式(6)の右辺はゼロとなり,修正場は式(6)よりとなることが分かる.
一方,実験計測場に誤差がある場合,式(7.a,b)は完全には満足されない.この場合,式(5)あるいは式(6)の変分原理を満足する修正場を決定することができれば,式(3)あるいは式(4)より自動的に実験計測誤差を最小化したあるいは消去した正解の変位場が得られる.なお,式(5)あるいは式(6)の右辺は実験計測場の誤差を自動的に修復する自己修復エネルギーとも解釈することができる.
3.インテリジェント全視野計測ハイブリッド法の定式化
ハイブリッド解析領域を有限要素分割し,各力学量をベクトル表記すると次のように表すことができる.
(9)
(10)
(11)
ここに,[N]は形状関数マトリックスで,
, は実験計測場および修正場の要素節点増分変位ベクトルである.また,[B],[Dep]はそれぞれ,ひずみ・変位関係マトリックス,弾塑性係数マトリックスである.
き裂先端近傍の大規模塑性変形周辺では,しばしば干渉縞などが崩壊し,計測が全く不可能な領域が生じることがある(図1参照).本法では,この計測不能領域の変位場も式(9)の表示で統一的に表す.すなわち,この領域では,実験計測場が得られていないことから
=0と設定し,を求める.
式(9),(10)および(10)を式(5)に代入し, の任意性より,次の有限要素方程式が得られる(7)(8).
(12)
(13)
(14)
ここで,[kep], [Kep] は要素および全体の弾塑性剛性マトリックスである.{DQmod}は修正場の全体節点変位増分ベクトルを表す.また,{DRmod}は自己修復力増分ベクトルである.
式(12)を解くことにより,計測不能領域の未知節点変位を含めて,未知の修正節点変位増分ベクトルが求まる.このように決定された変形場は,仮想仕事の原理を満足し,また,つり合い方程式を満たすことになる.
4.インテリジェント全視野計測ハイブリッド法の応用例
ここでは,非線形弾塑性変形場にインテリジェント全視野計測ハイブリッド法を応用した例を説明する(9).図1にA533B鋼CT試験片のき裂先端近傍で計測したモアレ干渉縞写真を示す.これらの画像をCCDカメラを用いてコンピュータに取り込み,2次元高速フーリエ変換などを基礎にした連続変位場計測プログラムを開発した.
このようにして得られた実験変位場を図2のハイブリッド法有限要素モデルの節点に入力データとして用いた.
図3に,誤差最小化を行なわない従来型のハイブリッド法と本インテリジェントハイブリッド法による応力場を比較して示す.従来型では誤差による乱れが生じている.一方,本インテリジェントハイブリッド法によれば,実験計測誤差の自動消去が行われ,計測不能領域においても正確な変位の分布が得られていることが分る.
図4は各ハイブリッド法から得られた塑性域分布を示している.図は降伏が生じた要素内積分点をプロットしたものである.従来型のハイブリッド法の結果においては,実験計測誤差の影響により試験片の各所で塑性変形が生じたような結果が生じている.弾塑性解析計算では,降伏の発生はその後の変形挙動の評価に様々な影響を与える.そのため,一度,実験計測誤差によって誤った塑性変形が発生すると以後の解析結果の正当性が失われる.インテリジェントハイブリッド法では,実験誤差が自動消去されるため,不適切な降伏点の発生はみられず,塑性域分布について変形の進行に応じた正確な結果が得られている.
次に各ハイブリッド法について,き裂先端近傍場から求めたT*積分(17)値の経路独立性を調べた.図5は各変形段階,各経路について得られたT*積分値を示している.従来型ハイブリッド法では,計測誤差の混入により,T*積分の経路独立性が損なわれている.一方,インテリジェントハイブリッド法では,自動的に経路独立性が回復され,高精度なT*積分の評価が可能であることが分る.
このようにインテリジェントハイブリッド法を用いると変形の進行に伴った破壊力学パラメータの正確な評価が可能となる.
Fig.1 Experimentally recorded moirinterferometry fringes
Fig.2 Mesh subdivision for the hybrid analysis region
Fig.3 Stress distribution
Fig.4 Plastic Zones
Fig.5 Restoration of the path independence of T* integral
5.あとがき
本稿では,固体力学の基礎方程式を満足するように,実験誤差を自動消去するインテリジェントハイブリッド全視野計測法について,著者らが得た研究成果の現状を紹介した.逆問題手法など,本研究者らの手法以外にも誤差を自動消去するインテリジェントハイブリッド法も考えられる.本稿が全視野計測法の自動化や知能化研究の一助になれば幸いである.
文 献
1) Nishioka, T., Fujimoto, T., Kobayashi, Y. Nishi, M. and Sakakura,
K.: Hybrid Moire-Experiment/Finite Element Analysis of Elastic-Plastic
Fracture Specimens, Proc. Conf. Adv. Tech. in Exp. Mech., JSME, (1993),
25-30
2) Nishioka, T. Kobayashi, Y., Fujimoto, T. and Epstein, J.S.: Finite
Element Analyses of the Near-Tip Deformation in Inhomogeneous Elastic-Plastic
Fracture Specimens, Int. J. Pres. Ves. & Piping, 63-3 (1995), 277-291.
3) 西岡・池北・玉井: 実験計測誤差を最小化する変分原理に基づくモアレ干渉法・有限要素ハイブリッド法(弾性変形場の場合),日本応用数理学会論文集,6-3
(1996), 233-252.
4) Nishioka, T., Ikekita, H. and Tamai, K.,: A Variational Principle
for Minimizing Experimental Measurement Errors and Its Application to A
Hybrid Experimental-Numerical Method, Comp. Mech., 20-1/2 (1997), 101-108.
5) 西岡・栗尾・中林: 実験計測誤差を自動検出・自動消去するインテリジェントハイブリッド法の実証的研究(弾性変形場の場合),日本機械学会論文集(A編),66-642
(2000), 326-333.
6) Nishioka, T., Kurio, K. and Nakabayashi, H.: An Intelligent
Hybrid Method to Automatically Detect and Eliminate Experimental Measurement
Errors for Linear Elastic Deformation Fields, Exp. Mech., 40-2 (2000),
170-179.
7) 西岡・池北・玉井・小林: 実験計測誤差を最小化する変分原理に基づくモアレ干渉法・有限要素ハイブリッド法(弾塑性変形場の場合),日本機械学会論文集
(A編),65-634 (1999), 1193-1200.
8) Nishioka, T., Ikekita, H., Tamai, K. and Kobayashi, N., An
Incremental Variational Principle Minimizing Experimental Measurement Errors
and Its Application to an Intelligent Hybrid Experimental-Numerical Method
(Case of Nonlinear Elastic-Plastic Deformation Field), JSME Int. J., Ser.
A, 44-1, (2001), 71-81.
9) 西岡・藤本・小林・栗尾: 実験計測誤差を自動検出・自動消去するインテリジェントハイブリッド法の実証的研究(弾塑性変形場の場合),日本機械学会論文集
(A編),67-655 (2001), 424-431.
10) 西岡・小林: 実験温度場に対する計測誤差最小化ハイブリッド法に関する基礎研究,日本機械学会第11回計算力学講演会講演論文集,98-2
(1998), 135-136.
11) 西岡・藤本・西岡: インテリジェントハイブリッド法による界面き裂近傍場の計測,日本機械学会論文集
(A編),67 (2001), (掲載予定).
12) Nishioka, T., Nomura, R., Fujimoto, T. and Epstein, J.S.:
Optical Measurement-Finite Element Hybrid Method for Three-Dimensional
Crack Problems, Advances on Computational Engineering and Sciences, (S.N.
Atluri and F.W. Brust, eds.), Vol. I, Tech Science Press, (2000), 1053-1058.
13) 西岡: ハイブリッド実験・数値法の最近の展開例,日本機械学会材料力学部門分科会・研究会合同シンポジウム(研究の最前線:21世紀へ向けて)講演論文集,No.00-3
(2000), 15-20.
14) Nishioka. T.: Hybrid Experimental-Numerical Methods for Dynamic
Fracture Phenomena, (Plenary Lecture), Proc. the 9th Int. Cong. on Exp.
Mech., Orlando, Florida, U.S.A., July 5-July 8, (2000), xxx-xxxiii.
15) Nishioka, T.: Hybrid Numerical Methods in Static and Dynamic Fracture
Mechanics, Optics and Laser Engineering, Special Issue on Hybrid Methods
in Experimental Mechanics, 32-3 (2000), 205-255.
16) 西岡: 最近のハイブリッド法とその応用例,日本実験力学会誌,22 (2001).
17) Atluri, S. N., Nishioka, T. and Nakagaki, M.: Incremental Path-Independent
Integrals in Inelastic and Dynamic Fracture Mechanics, Eng. Fra