熱流体分野における全視野計測

松井剛一(筑波大学機能工学系), 文字秀明(筑波大学機能工学系)

Full-field Visualization Measurement in Fluid Mechanics

G. Matsui and H. Monji
 Univ. of Tsukuba, Japan

In this paper, visualization measurement techniques in single- and multi-phase flow fields are described centered on the authors' studies. Measurement introduced here are PIV, PTV, Hybrid PIV, fast X-ray CT, fast NMR imaging and Neutron radiography.

1.まえがき
 熱流体や混相流の分野においても,流動の時空間構造を把握するために,可視化‐画像処理計測技術を利用した実験研究が盛んである.多くの研究があるが,ここでは,著者の研究室で行われた研究成果をもとに現状を紹介する.まず,単相流体の流動計測を紹介し,次いで,混相流体関連の流動計測について紹介する.

2.熱流体の可視化計測
 流体の分野では,トレーサ粒子の挙動をPIV(画像処理流速計)で計測し,速度場を得る.これをもとに流体の速度,渦度等の特性が議論される.以下に2例を示す.他に,噴流,温度層状流など流路内流れや流体機械等の機器内の流れの計測が行われている.
(1)流量計内部の流れ
 透明樹脂で作られた流量計内部の流動構造をPIVにより計測した結果を示す1).この流量計は容積型で,回転子形状はスパイラル歯形である(Fig.1).Fig.2に流量計出口付近の内部流れの一例を示す.最初,水を作動流体として測定したが,内部の流れが鮮明に得られない部分があったので,アクリル樹脂の屈折率と合わせた溶液(NaI)を用いて測定したものである.
(2)局所閉塞のある流路の内部流れ
 ガラス球(φ20)を格子状に組んだ閉塞物(3×3×15個)が局所的に流路に存在するような流路(Fig.3(a))の内外の流動を可視化‐画像処理流速計で計測した結果を示す2)-4).閉塞部入口部の速度場をFig.3(b)に示す.局所流動の特徴が得られている.また,側壁を加熱した場合の流路内温度特性をレーザ誘起蛍光法(LIF)により計測した結果を示す (Fig.3(c)流路出口部).なお,速度場を同時に計測している.

3.混相流の可視化計測5-7)
 流れ場(面)を可視化する方法として可視光線を利用する方法と可視光でない線や波を利用する方法があり,透明でない物質に対しては,電磁波等の吸収が媒質により異なることを利用したX線CT,中性子ラジオグラフィ,核磁気共鳴を利用したMRIなど種々の計測法がある.
(1)可視光線
 著者の研究室で開発されたHPIV(ハイブリッド型PIV)と二相流素過程計測に利用した結果について紹介する8).この方法は,PTV (粒子追跡流速計)とPIV (粒子画像流速計)を組合せたもので,連続流体中を流れる分散相の運動をPTVにより,その周囲の速度場をPIVにより同時に計測することができる.連続流体の2次元速度場と分散相粒子の3次元運動を同時計測するHPIVの構成をFig.4に示す.速度場は,通常のPIVと同様に,流れ場にレーザ・シート光(YaGパルスレーザ)を照射し,PIV用カメラで流れ場の撮影を行う.一方,粒子運動は,流れ場にストロボ光を照射し,それに対する粒子(界面)の影をPTV用カメラで撮影する.ストロボ,レーザ光源,カメラは,コントローラにより同期が取られ,同時刻の画像が取り込まれるようになっている.ハイブリッドPIVを用いて二相流素過程を計測した結果をFig.5に示す.これは,大気圧,室温条件下で内径4 cmの垂直アクリル円管内に溜められた静止水中(密度998kg/m3)を, (a)密度860 kg/m3,直径0.95 cmの球形固体粒子, (b)密度57.3 kg/m3,直径1 cmの球形固体粒子, (c) 長軸1.06 cm,短軸0.45 cm,密度233 kg/m3の偏平固体粒子, (d)等価直径0.91 cm の空気気泡のそれぞれが上昇する様子と周囲の速度場を示す.固体粒子または気泡は黒色で表されており,その周りの水の測定面内2次元速度がベクトルで表されている.また,速度ベクトルより算出した渦度が濃淡で示されている.これらの結果から,ほぼ同じ大きさの粒子であっても,浮力(周囲流体との密度差)によって発生する後流の構造に違いがあることが分かる.粒子運動と関連付けて考えると,水と密度差の少ない固体粒子の場合,固体粒子は直進し,乱れも粒子に対してほぼ対称な形をしているが,水と密度差の大きな固体粒子では,粒子がジグザグ運動し後流の対象性も失われることが分かる.また,偏平固体粒子の場合は,密度差はそれほど大きくないが,非球形である効果によりジグザグ運動し,後流も対称ではない.気泡の場合は,非球形であることや変形する効果を含むが,水と密度差の大きな固体粒子と同様なジグザグ運動あるいは螺旋運動し,後流の対象性が失われているのが観測される.HPIVにより計測された界面の輪郭と粒子周りの鮮明な速度場は,従来のPIVでは計測できなかったものである.
(2)X線CT
 流れが,可視光線で透視できない場合には,可視光線よりも波長の短い電磁波が利用される.高速X線CTスキャナ−を利用して,流路横断面上のボイド率分布の構造,ボイド率分布,気相流速を測定し,得られたボイド率情報を画像化し,流動状況を可視化できるようになった.Fig.6に高速X線CT装置の概略を示す.この装置では,一断面のスキャン時間が3.6msec,撮影速度は250コマ/秒,空間分解能は約2mmである.
Fig.7は,内径42mmの垂直管内を流れる窒素ガス気泡の形状を,高速X線CTを用いて可視化した例9)である.測定面を通過する砲弾型をしたスラグ気泡の断面が8ms毎の時系列で記録されている.また,Fig.8は1秒間に得られる250枚の断層像を重ねて,側面から可視化したものになっている.流路断面におけるこれらの多次元的な界面形状は,従来のプローブを用いた計測法では測定できなかったものである.
(3)NMR影像法
 核磁気共鳴を利用して混相流の相分布と同時に速度,加速度を直接可視化できる方法である.また,NMR影像法では測定面を任意の位置,方向に設定することができる.
 Fig.9は,超高速NMR影像法の手法であるπ-EPI法により,垂直円管(内径16mm)内の単一上昇気泡周りの流動を可視化したものである10).液相はセルロース水溶液(1wt%)である.測定面は,単一気泡生成ノズル下流3cmを中心とする19.2mm×19.2mmの管軸を含む領域で,画素数は64×64である.流動の可視化手法には振幅法を用いた.振幅法は磁気的に正方格子パターンを流体に付け,そのパターンの変化により流動の様子を示す方法である.格子パターンは高周波磁場により水素の核スピンを励起することにより得られる.水素原子は水の一部であり,水が流動すれば,格子パターンも共に移動・変形する.Fig.9の上列は0.2秒間隔で撮られた3枚の連続NMR画像で,等価球直径3.9mmの気泡が測定面に進入し,出て行くまでを示す.真中のNMR画像では気泡を測定面中央部に捉えている.気泡の輪郭は振幅法を用いているためはっきりとしないが,水の流動状態が格子パターンの変形として直接見てとれる.また,下列はそれぞれ上側のNMR画像から読み取った測定面内速度ベクトルの分布である.気泡上部では気泡が水を押しのけるため水は上方及び斜め上方向に流動し,気泡側面では水は下方へ流動し,気泡下部では気泡通過後の空間を埋めるように水が流動する様子がわかる.
(4)中性子ラジオグラフィ
 X線やγ線では流れの透視が困難な金属性流路の場合には,中性子線が利用される.流路壁では透過し試験流体中では減衰する物質が都合がよい.二相流体では,中性子がよく透過する軽,重金属と減衰の大きい水素,水,カドミウムなどの組合せがよい.中性子ラジオグラフィは,熱中性子が水素化合物などの流体媒質の透過距離に比例して減衰する(吸収される)ことを利用して,媒質を透過した中性子によって投影する方法である.
 高時間分解能中性子ラジオグラフィ法には,中性子源,撮像媒体によって(a)パルス中性子を用いた静止画法(高空間分解能),(b)パルス中性子を用いた動画法(短時間高速度撮影),(c)定常中性子を用いた動画法長時間撮影:1000fps)の3つの撮像法がある.
 Fig.10に4×4ロッド・バンドル内の空気・水二相流環状流のCT再構成断層図の例を示す11).約10万点について水のホールドアップに比例したサーフェス・プロット図を示している.

4.あとがき
最近の流れの可視化計測法の進歩は目覚ましく,紙面の関係で紹介から漏れたものも多いと思う.文献12)および6)等を参考にされたい.

参考文献
1) Matsui, G. et al: Internal Flow Visualization in Positive Displacement Meter by PIV, Proc. 9th International Symposium on Flow Visualization, (2000), (CD=ROM).
2) Tanaka, M. et al.: Visualization of Flow Field in a Cubic Packing Spheres, NURETH-9, (1999), (CD-ROM).
3) 松井:粒子充填層内における乱流熱輸送.に関する研究,科研費研究成果報告書,(2001).
4) Matsui, G. et a l.: Flow Characteristics in Channel with Local Blockage Paced with Spheres, ExHFT-2001, (2001).
5) 松井,気液二相流可視化技術の最先端,混相流のグラフィック・シミュレーションと可視化,GSV-No.11,1-17(1990).
6) 松井,流体実験ハンドブック 14混相流,朝倉書店,600-635(1997).
7) 松井,流動様式測定と流れの可視化計測,混相流14-1, 24-38(2000).
8) Matsui, G. et al.: Bubble/Particle Motion and Ambient Flow by PIV And 3D-PTV,  Proc. of the ICMF-2001,
  (2001), (CD-ROM).
9) Misawa. M. et al.: Measurement of Interface Deformation of Slug Bubbles in a Vertical Upward Gas-liquid Flow,  Proc. 8th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE8),Baltimore, USA, Vol.1, No.8440 (1)
10) Matsui, G. et al.: Visualization of Phase and Velocity Distribution in Gas-Liquid Mixture by NMR Imaging, OECD/CSNI Specialist Meeting on Advances Instrumentation and Measurement Techniques, (1997).
11) 竹中:中性子ラジオグラフィによる混相流の可視化と定量的計測の試み,混相流のグラフィック・シミュレ−ションと可視化,GSV-No.41, 1-13(1998).
12) (例えば)流れの可視化学会編,「新版流れの可視化ハンドブック」,朝倉書店, (1986).


Fig.1 Oval gear

Fig.2 Velocity field at outlet

Fig.3 Internal flow in local blocking

Fig.4 Hybrid PIV system

Fig.5 Velocty field around a particle or a bubble

Fig.6 Schematic diagram of electron beam switching X-rayCT scanner system

Fig.7 Tomography images of slug flow at L/D = 22.7

Fig.8 Axial development of slug flow in pseudo 3D format

Fig.9 Flow visualization around a rising bubble by ultrafast NMR imaging

Fig.10 Two-phase annular flow in 4 x 4 rod bundle


Last Updated July 29, 2001