加藤 章(中部大)
Measurement of Deformation Distributions Using Speckle Pattern
Akira KATO, Chubu University, Kasugai, Aichi 487-8501
Strain measurement method in the whole view field
using speckle pattern is summarized in this paper. Advantage of the method
using random pattern is that it is not necessary to use grid with regular
pattern. Disadvantage is that it is not easy to adjust accuracy of the
measurement from various size of the random pattern and much calculation
amount is required for correlation method. But CPU power has been raised
rapidly these days and is overcoming these disadvantages. And also the
resolution of CCD devices has increased recently. These progresses of technology
in CPU and image capture devices realize remarkable progress in the strain
field measurement using random pattern.
Key Words: Non-Contact Deformation Measurement, Strain distribution
measurement, Image Processing, Correlation, Speckle, Random Pattern,
1. まえがき
スペックルパターン(広義の意味では試験片表面に付けたランダムパターン)を用いた全視野ひずみ測定では,まずその利点は試験片表面に規則的な格子を付ける必要がないことであろう.逆に欠点はランダムなサイズの点を用いているためその測定精度を調整することが少し難しく,測定したい変位の大きさに合わせてパターンの大きさを調節しなければならない点である.しかしそれは格子を用いた方法でも共通するものである.また,画像相関を用いて変形を測定する方法では,非常に多量の計算量を必要とする点である.しかし,最近のコンピュータのCPUの能力の進歩は驚異的であり,PC用のプロセッサのクロック周波数は1GHzを超えてさらに上昇しつつある.さらに新しい安価な64bitのCPUも発表されている.このような状況から考えてデジタル画像を用いた全視野計測法は画像処理アルゴリズムの進歩と合わせて非常に実用的に使いやすくなってきた.この方法はCPUの進歩に合わせて成長していくものと考えられる.さらにこの方法を用いて精度の良い測定を行うためには高解像度の画像が必要であるが,高解像度のCCD撮像素子が安価に手に入るようになって来ている.この方法を用いた測定を行なうための環境は整いつつある.
2. スペックルパターンを用いた全視野計測法の概要
最近の光学的方法によるひずみ測定法が文献(1)にまとめられている.広義の意味でのスペックルパターンを用いたひずみ計測法については,表面にスペックルパターンを付ける方法によって大きく分けて,(1)粗面にレーザを照射した場合に生じる散乱光の干渉によるレーザスペックルを用いる方法と,(2)表面の凹凸による陰影などあるいは塗料などを吹き付けることによりランダムパターンを作成する方法とがある.比較的最近報告されたものをそれぞれの手法あるいは用途によって分類すれば表1に示すようになる.
2.1 レーザスペックルを用いた方法
レーザスペックルを用いたひずみ計測法についてはこれまでに山口および他の多くの研究者によって解説されているので(2),
詳細は省くが, この方法は大きく分けて,(1)干渉による方法と,(2)画像相関による方法の二種類に分けることができる.
(1)干渉による方法では表1に示すように,スペックル写真法と電子スペックル干渉法(ESPI)
とがある.スペックル写真法では変形前後のスペックル模様を二重露光記録したスペックルグラムを用いて変位計測を行うものである.スペックルグラムに細束のレーザビームを照射し,得られる干渉縞から変位量を求めるもので,これをXYステージにより移動させることにより,変位分布を計測することが出来る.
ESPIでは, 初期のスペックル像と変形後のスペックル像をコンピュータに画像入力し,
その差を取ることにより, 縞画像を求める方法である.この方法により写真記録を経ないで変位や振動の様子を実時間で観察することが出来る.この方法によりアルミニウム板の塑性変形から破壊に至るまでの全過程を連続観察した例などが報告されている(4).
(2) スペックル相関を用いた方法については,スペックルを一次元あるいは二次元の画像として入力し,
相関関数のピーク位置を求めることによって移動量を計算する方法である.スペックルの移動をラインセンサーで検出すれば,その方向のひずみを計測することができ,レーザの照射個所のひずみを測定するためのひずみ計として用いることができる.また,二次元の画像として入力すれば,入力した画像のある大きさの領域ごとの相関関数を計算することにより,二次元の画像の領域全体のひずみ分布を求めることができる.
2.2 ランダムパターンを用いた方法
試験片表面に付けられたランダムパターンを用いて全視野測定を行なう方法については,Suttonらが非常に広範な実験を行なっている.測定対象にランダムパターンを付ける方法としては,スプレイ塗料を表面に吹き付けるという方法が良く使われる.2台のカメラを用いてステレオ観察を行えば,面内の変位分布だけでなく,三次元的な変形を測定することができる.この方法を用いた三次元変形測定についてSuttonらが多くの報告をしている.一例として,
図1にき裂先端の三次元変位分布を測定した例を示す(2).
この方法を用いて変位計測を行なう場合,変形前後の画像を取り込み(図2),画像相関を取って,対応点を検索するのが通常の方法である.実時間あるいはそれに近い測定を行なうためにはCCDビデオカメラを用いて連続的に画像を取り込むのが普通であるが,通常使われるNTSC方式のビデオカメラではその解像度は640×480画素であり,変形前後の2枚の画像から1画素単位の対応点を探索するものとすれば,測定できるひずみの大きさは最小でも1/640=1.56×10-3であり,1×10-3以下の精度を得ることはできない.測定精度を良くするためには1画素以下の精度で対応点の探索を行う必要があり,そのために各種の方法が報告されている.Suttonらは画素間の内挿により0.02画素の精度で対応点探索を行い,200×10-6のひずみを測定できる方法を報告している(6).また,著者らも図4に示すように画素間の輝度を5次式を補間式として用いて内挿し,繰返し計算を行うことによって比較的に簡便な方法により高精度の対応点探索を行う方法を報告している(12).また,この方法の精度を上げるためには画像の諧調を多くすることが一つの方法であるが,通常のモノクロ用の画像キャプチャーボードでは輝度諧調が8bit,256階調のものが一般的である.そこで,RGBのカラー画像を用いれば,各色8bitで1600万色を表現することができ,諧調がそれだけ上がることになる.そのような理由からカラー画像を用いた方法も報告されている(7).
画像相関を用いて二次元および三次元の変形を計測する方法は微小なものから巨大なものまで非常に広い範囲の測定対象に適用されている.微小なものについては走査型電子顕微鏡内で荷重を加えた場合のき裂先端近傍のひずみ分布を測定した例が報告されている(8)(9).ランダムパターンを用いて測定を行う場合,測定したい領域およびひずみの大きさによって標点とするパターンの大きさを変えることが必要であるが,この方法では酸化マグネシウムの微小な粉末を測定対象に付着させ,その変形前後の動きを画像処理により計測することによってひずみ分布を求めている.
ランダムパターンを用いた測定は,機械工学以外の分野においても適用されており,例えば圧縮試験を行った場合のコンクリート内のき裂分布およびき裂周辺の変形分布の計測例などが報告されている(10).また,太陽光によるスペックルパターンにより氷河の移動などを計測した例も報告されている(11).これらの応用例に関する詳細は文献を参照されたい.
手元にある資料のみから以上のようにまとめてみたが, この方法はさらに広い分野において適用されているものと推定され,非常に応用範囲の広い方法であると考えられる.
3. むすび
以上,本報告では広義のスペックルパターンとしてレーザスペックルおよびランダムパターンを用いたひずみ計測法について述べた.この方法ではレーザスペックル法としてある程度確立されている方法とともに,測定対象表面のランダムな標点を用いた測定法があるが,これについては使用する標点の大きさにより微視的な測定から大規模な対象の測定まで非常に広範な適用が可能である.原理は変形前と変形後の最低二枚の画像を用意すればよく,あとはすべて同じ計算アルゴリズムによって解析を行なうことができ,一つの標準化した方法として規格しやすい.
これまで規格化されてきた従来のひずみ測定法はひずみゲージを始めとしてコンピュータの使用を必ずしも前提としていないものであった.ハードウェアとしての測定装置と測定手順を規格してきたが,今後の方向としてモアレ法などの他の全視野計測法と同様にコンピュータによる信号(画像)処理の使用を前提とし,システム全体として規格を標準化する必要がある.その際に測定結果は処理を行った計算アルゴリズムに依存することが考えられ,今後これを如何に標準化するかが課題になると思われる.
参考文献
(1) 例えば, P. Rastogi and D. Inaudi, Trends in Optical Non-Destructive
Testing and Inspection, Elsevier, (2000).; J.S. Epstein, Experimental Techniques
in Fracture, VCH Publishers, (1993). など.
(2) 例えば,.R.S. Sirohi, Speckle Metrology, Marcel Dekker, (1993).;
日本非破壊検査協会, 新非破壊検査便覧, 日刊工業新聞社, (1992), 751-758.;高橋賞,
フォトメカニックス, 山海堂, (1997), 157-174. など.
(3) K. Machida, Study of Stress-Analyszing System by Speckle Photography,
Proc. ATEM9, (1999), 623-628.
(4) 豊岡了, スペックル干渉法による塑性変形過程の時空間観察, 応用物理,
66, (1997), 457-461.
(5) K. Ogura, I. Nishikawa and H. Waki, Development of Lase Speckle
Biaxial Strain Gauge and its Application to Notch Root Strain Measurement,
Proc. ATEM9, (1999), 617-622.
(6) P.F.Luo, Y.J.Chao, M.A.Sutton and W.H. Peters, Accurate Measurement
of Three-dimensional Deformations in Deformable and Rigid Bodies Using
Computer Vision, Experimental Mechanics, 33-2, (1993), 123-132.
(7) A. Voloshin, J.L.F.Freire, 卍isplacement Measurements using RGB
Proc. 2000 SEM IX International Congress on Experimental Mechanics, (2000),
140-143.
(8) 城野政弘, 菅田淳, 宝田真一, 大久保啓之, 駒城倫哉, 走査電子顕微鏡による疲労き裂進展挙動の動的直接観察と画像処理技術の開発,
材料, 39-446, (1990), 1583-1589.
(9) M. Jono and A. Sugeta, Direct Observation of Fatigue Crack Growth
using a Field Emission Type Scanning Electron Microscope, Proc. Asian Pacific
Conference on Fracture and Strength 3, (1993), 419-424.
(10) S.H. Cho, K. Hisatomi and S. Hashimoto, Cracks Feature Extraction
and Strain Measurement of the Concrete Block Surface using Image Processing
Technique, Proc. 4th Int. Conf. on Quality Control by Artificial Vision,
(1998), 503-508.
(11) E.W. Smith and H.C. North, Sunlight Illuminated Speckle Photography,
Proc. ATEM9, (1999), 611-616.
(12) 加藤章,和手久直,デジタル像相関を用いた微小変形の測定,「外観検査の自動化」ワークショップ,精密工学会,(2000),36-40.
表1 スペックルパターンを用いたひずみ計測
図1 き裂先端近傍の三次元変位分布の測定(Suttonら)
(a)
(b)
図2 サンプル画像
図3 初期の参照画像
(a) 1次式を用いた補間
(b) 3次式を用いた補間
(c) 5次式を用いた補間
図4 輝度の補間(12)
図5 き裂周辺のひずみ計測
(a) 圧縮試験後
(b) 変位分布
図6 コンクリートの変位計測(圧縮試験)(10)
図7 氷河の流れの計測(11)