光弾性実験の自動化の現状

梅崎 栄作 (日本工大)

Present Situation of Automatic Photoelastic Experiments

Eisaku UMEZAKI
Dept. of Mechanical Engineering, Nippon Institute of Technology)

Photoelasticity is a full-field method which enables experimental stress analysis of two- and three-dimensional components to be performed by analyzing the photoelastic fringes, i.e. isochromatics and isoclinics. However, the collection of photoelastic parameters can be a long and tedious process. The advance of automated photoelastic system has allowed the experimentalists to speed up the rate of analysis and to perform more complex investigations. In this paper, a survey of recent methods of automated photoelasticity developed in the last 20 years is provided.

1.はじめに
 光弾性法は,実験応力解析における有力な方法であり,モデル全域で応力解析をすることができる.また,光弾性法は,その特徴を生かして,応力拡大係数の算定や,有限要素解析の結果の検証等にも利用されている.しかしながら,応力解析に必要な光弾性パラメータ(等色線縞から得られる縞次数(主応力差),等傾線縞から得られる等傾線角度(主応力方向))を取得するのに時間が掛かるために,その自動化が進められてきた.
 光弾性パラメータの取得法を歴史的に眺めて見ると,三つの世代に分けることができる.第一世代(1920年代〜1960年代)の方法は,熟練者によって,写真撮影された等色線縞と等傾線縞の中心を手作業で抽出し,縞次数と等傾線角度を割り当てるものである.第二世代(1960年代〜1970年代)の方法は,回転する光学部品を備えた特殊な偏光器と任意点の光強度を測定する光センサーに基づくもので,任意点の縞次数と等傾線角度が自動的に測定できるようになった.第三世代(1970年代後半〜)の方法は,全域自動解析法と呼ばれ,従来の偏光器にコンピュータと画像処理装置を組み込み,モデル全域での縞次数と等傾線角度を自動的に測定するものである.これらの方法の概要については,文献1〜9に述べられている.ここでは,現在,主として用いられている,第三世代の方法の種類,特徴等を時代順に述べる.

2.全域自動解析法の分類
 第三世代の全域自動解析法は,以下のように分類できる7).括弧内の数字は,その方法が論文として最初に公表された年を表す.
(1) 縞中心抽出法(1979)
(2) ハーフフリンジ法(1983)
(3) 位相シフト法(1986)
(4) フーリエ変換法(1986)
(5) スペクトル解析法(1985)
(6) RGB光弾性法(1991)
 全域自動解析法の特徴は,偏光器にはほとんど変更を加えないで,コンピュータと画像処理装置を用いて実施される,ディジタル画像処理にある.したがって,第三世代の方法を用いた光弾性法は,ディジタル光弾性法とも呼べる.ディジタル画像処理においては,画像は画素の集合として取り扱われ,各画素に対して,主として,光強度に依存した0から255の数値が割り当てられる.カラー画像処理を用いる場合には,RGBモードでの利用がほとんどで,R,G,B(赤,緑,青)の各画像の各画素に対して光強度は,0から255の数値で離散化される.なお,以下において述べられているディジタル光弾性は,特にことわりがなければ,単波長光源を用いたモノクロ画像を対象としたものである.

3.全域自動解析法の特徴
3.1 縞中心抽出法
 ディジタル光弾性は,1979年に発表された,縞中心抽出法から始まった.縞中心抽出法は,第一世代の縞処理法である,手作業による縞中心の抽出を自動化したものである.この方法は,縞細線化法とも呼ばれ,縞をあるしきい値で二値化した縞の中心を求めるものと縞強度値の最小値を求めるものとに分けることが出来る.この方法の特徴は,他の方法のように,システムの校正を必要としないし,1枚の画像があれば,縞抽出が可能であるので,動的解析にも適用できることである.しかしながら,この方法によって,抽出縞の次数を決定することは容易でないし,抽出縞間の縞次数は不明である.抽出縞の次数を決定するためには,縞次数が既知の抽出縞を少なくても一つは与えられなければならない.また,縞光強度が最小光強度を中心として左右対称でないときには,抽出縞位置が,縞位置である最小光強度の位置とずれることがある.
最近,これらの縞中心抽出法と同様に,線状の縞を抽出するために,縞中心抽出法の欠点を克服する方法が考案されている.この方法は,カラー画像処理システムを用いて得られる,円偏光器における暗視野と明視野のカラー(R,G,B)等色線縞を利用して,等色線縞を増倍・抽出する10).この方法によって抽出できる等色線縞は最大3,4次縞であるため,三色光源やTricolorフィルタを用いて,抽出できる等色線縞の最大次数を増加させる方法が考案されたり,さらには三色光源やTricolorフィルタと組み合わせた平面偏光器におけるカラー光弾性縞を利用して,等色線縞を増倍・抽出する方法も考案されている11),12)
3.2 ハーフフリンジ法
 等色線縞間の縞次数を求めるためにまず提案されたのが,ハーフフリンジ法である.この方法は,0次と0.5次縞の間や最大と最小縞次数の差が0.5次である場合の端数縞次数を,あらかじめ作成しておく端数縞次数と縞光強度の関係から求めるものである.この方法は,簡単であるため,アクリルやガラスのような低感度材料で作られたモデルの解析等に多く用いられている.
3.3 位相シフト法
 位相シフト法は,偏光器を構成する偏光板や1/4波長板のような光学部品を回転して得られる数枚の画像を組み合わせて,すべての画素における等色線縞次数と等傾線角度を求めるものである.この方法によって得られる縞次数は,0次から0.5次の間の相対縞次数であるため,絶対縞次数を求めるには,位相接続(縞次数を接続する場合も便宜上位相接続と呼ぶことにする)の処理と少なくても1点の絶対縞次数を知らなければならない.また,この方法は,整数次の等色線が存在する場所で等傾線角度を正確に求めることができないし,光強度が変動する光源を用いると結果に悪影響を及ぼす.しかしながら,この方法はモデル全域で等色線縞次数と等傾線角度の両方が同時に求まる(正確には,まず,等傾線角度を求め,その後,その等傾線角度用いて縞次数を求める),画期的な方法であるため,現在も,改良が加えられている.
位相シフト法がもつ欠点(光強度変動の影響を受けやすい)を克服するために,一般化位相シフト法13)が考案された.この方法は,従来の位相シフト法と違って,等色線縞次数を求めるのに等傾線角度を必要としないため,縞次数が等傾線角度の抽出精度の影響を受けない.
位相シフト法は,光学部品を回転させるため,必要な数枚の画像を得るのに時間が必要である.この画像取得時間を短くするために,光学部品を高速に回転する方法14)や,画像枚数分のカメラを利用する方法15)が考案されている.このことにより,位相シフト法を動的光弾性に拡張できる可能性がでてきた.
3.4 フーリエ変換法
 フーリエ変換法は,位相シフト法が空間領域における処理であるのに対して,周波数領域における処理であり,位相シフト法と同様に,全画素における相対縞次数または等傾線角度が求められる.また,この方法は,位相シフト法とは異なり,雑音に強いが,相対縞次数と等傾線角度を同時に求めることが困難である.
3.5 スペクトル解析法
 以上述べた方法は,ハーフフリンジ法を除き,相対縞次数を求めるものであり,絶対縞次数を求めるには,位相接続の処理や少なくても1点の絶対縞次数を知る必要があった.そこで,つぎに,絶対縞次数を直接求める方法として,スペクトル解析法が考案された.この方法は,従来の方法が用いていた単色光源の代わりに白色光源を用い,各絶対縞次数に対応したスペクトル分布の関係を利用して,絶対縞次数を求めるものである.この方法には,8枚の干渉フィルタを用いて得られた8枚の画像から,全域の絶対縞次数を求める方法も提案されているが,基本的には,ある点において光ファイバで集めた光データを分光する,点測定法である.なお,等傾線角度を測定する方法も提案されている.
3.6  RGB光弾性法
 絶対縞次数を求めるためのもう一つの方法は,RGB光弾性法である.この方法は,カラー画像処理システムが用いられ,あらかじめ得られた絶対縞次数とR,G,B(赤,緑,青)画像における光強度値の関係と測定縞画像におけるR,G,B値を比較して,全画素における絶対縞次数を求めるものである.この場合,単にR,G,B値の比較だけでは,誤った絶対縞次数が割り当てられることがあるため,R,B,G値を組み合わせたものを比較するなどの工夫が行なわれている.この方法は,非常に単純であり,容易に実施できるため,自動光弾性に利用できる.また,測定縞のR,G,B値とあらかじめ求めることができるR,G,Bにおける縞次数の比を縞次数についての非線形方程式に代入し,この式を数値的に解くことにより縞次数を求める方法が考案されている16).ただし,R,G,Bの光強度値は,主応力方向の値によって影響を受けるために,主応力方向の影響をできるだけ軽減する方法も考案されている.
RGB光弾性法で取り扱える最大等色線縞次数は,光源に白色光(ハロゲンランプ)を用いているため,3,4次であった.この取り扱える最大等色線縞次数を増加させるために,光源に三色光源を用いる方法やTricolorフィルターを用いる方法が考案されている11),12),16),17)
この方法は,あらかじめ校正試験により,R,G,Bの光強度と縞次数の関係などを調べておく必要がある.ため,光源の光強度の変動がなく,モデル全域で均一な光強度が要求される.
3.7 ハイブリッド法
 上記で紹介した方法は,それぞれ一長一短があるために,一つの方法であらゆる光弾性実験に対応するようには到っていないし,全域完全自動化には成功していない.そこで,それぞれの方法の長所を生かした組み合わせをすることによって,完全自動化やより適用範囲を広める工夫も試みられるようになった.例えば,カラー画像処理システムにより,カラー画像を6枚取得し,得られた画像のG画像から位相シフト法によって相対縞次数を求め,さらに相対縞次数を絶対縞次数に変換するために,RGB光弾性を利用する方法が提案されている18)

4.おわりに
 本稿で紹介した方法によって,光弾性縞の自動解析が大きく前進した.しかしながら,まだ,光弾性縞の完全自動化やあらゆる光弾性実験に対応できるようには到ってはいないため,さらなる自動化をめざして研究が進められている.いったん,絶対縞次数(主応力差)と等傾線角度(主応力方向)データが得られれば,これらのデータを従来のせん断応力差積分法などに適用することにより応力成分が求められる.
 本稿で紹介した方法は,ほとんどの場合,2次元の透過光弾性モデルに適用されているが,皮膜光弾性法にも適用可能である.しかしながら,3次元の透過光弾性モデルの応力解析に必要な光弾性パラメータの取得には,さらなる工夫が必要である19)-21)

参考文献
1) 梅崎栄作,玉木 保,高橋 賞:画像処理による光弾性応力解析,非破壊検査,35-2(1986), 55-61.
2) 高橋 賞,梅崎栄作,玉木 保:光弾性法の機械工学への適用とその応用,機械の研究,38-4(1986), 537-542, 38-5(1986), 647-650, 38-6,(1986), 739-746.
3) 梅崎栄作,玉木 保:画像処理を利用した光弾性応力解析,内燃機関,25-12(1986), 17-25, 26-2(1987), 72-82.
4) 梅崎栄作,玉木 保,高橋 賞:コンピュータを利用した光弾性応力解析,非破壊検査,39-4,(1990), 300-306.
5) Patterson, E.A.: Automated Photoelastic Analysis, Strain, 24-1(1988), 15-20.
6) Patterson, E.A., Ji, W. and Wang, Z.F.:  On Image Analysis for Birefringence Measurements in Photoelasticity, Opt. Lasers Engng., 28-1(1997), 17-36.
7) Ajovalasit, A, Barone, S. and Petrucci, G.:  A Review of Automated Methods for the Collection and Analysis of Photoelastic Data, J. Strain Analysis, 33-2(1998), 75-91.
8) Ramesh, K. and Mangal, S.K.:  Data Acquisition Techniques in Digital Photoelasticity: A Review, Opt. Lasers Engng., 30-1(1998), 53-75.
9) Ramesh, K:Digital Photoelasticity, Springer-Verlag, (2000)
10) 南家由紀久,梅崎栄作:画像処理によるRGB光弾性において得られた等色線縞の増倍と抽出,日本機械学会論文集(A編),65-635(1999), 1607-1614.
11) 梅崎栄作,児玉健一:Tricolorフィルターを利用したカラー光弾性実験,非破壊検査,49-9,(2000), 630-635.
12) 児玉健一,梅崎栄作:平面偏光器で得られるカラー光弾性縞からの等色線縞の増倍・抽出,33回応力・ひずみ測定と強度評価シンポジウム講演論文集,(2001), 99-104.
13) 梅崎栄作,小池尚男,渡辺 寛:一般化位相シフト法による光弾性しま次数の全域自動測定,日本機械学会論文集(A編),62-599(1996), 1690-1695.
14) 森本吉春,松井 亮,白 泰鉉,金 明洙:位相シフト法を用いた等色線・等傾線の自動解析,実験力学,1-1(2001), 29-33.
15) Patterson, E.A. and Wang, Z.F.:  Simultaneous Observation of Phase-Stepped Images for Automated Photoelasticity, J. Strain Analysis, 33-1(1998), 1-15.
16) 米山 聡,後藤仁一郎,隆 雅久:三色粘弾性法による時間依存性しま次数および偏光主軸方向の決定,日本機械学会論文集(A編),64-620(1998), 1007-1013.
17) Kihara, T.:  Automatic Whole-Field Measurement of Total Relative Phase Retardation using Three Wavelengths, 光弾性学論文集,19-1(1999)
18) Ramesh, K. and Deshmukh, S.S.: Automation of White Light Photoelasticity by Phase-Shifting Technique Using Colour Image Processing Hardware, Opt. Lasers Engng.,  28-1(1997), 47-60.
19) Cen, M., Tomlinson, R.A. and Patterson, E.A.: Integrated Birefringence Applied to Solids and Fluids-A Review, Exp. Mech., Allison (ed.), Balkema, Rotterdam (1998), 507-512.
20) Kihara, T.: A Measurement Method of Scattered Light Photoelasticity Using Unpolarized Light, Exp. Mech., 37-1(1997), 39-44.
21) Berezhna, S., Berezhnyy, I. and Takashi, M.: Integrated Photoelasticity through Imaging Fourier Polarimetry of an Elliptic Retarder, Appl. Opt., 40-5(2001), 644-651.
 


Last Updated July 16, 2001