静的及び動的状態でのタイヤの形状・表面ひずみ分布のフーリエ変換格子法による計測

岩瀬 雅則(東洋ゴム工業株式会社)

Measurement of tire contour and surface strain distribution under static and dynamic conditions using Fourier transform grid method

Masanori Iwase
Toyo Tire & Rubber Co.,Ltd.

The sidewall contour area is one of the most important variables in designing automobile tires.  Several attempts have been made to measure the sidewall contour in service conditions and several methods have been proposed and in use. However it has been very difficult to measure the sidewall contour and surface strains under dynamically loaded conditions.  This paper reports a new method which employs the image processing method based on Fourier transform grid method. Brief description of the method and some results of application under statically and dynamically loaded conditions are presented.
Key Words: Tire, Measurement/Image Processing, Grid, Fourier Transform

1.まえがき
 タイヤの形状はタイヤの規格に基づいて設計されるが,タイヤの寸法を決定するだけでなく,特に断面形状は各種性能へ大きく影響することが知られている.タイヤ各社からはタイヤ形状理論なるものが発表され,製品に生かされている.このようにタイヤ開発においてタイヤ形状を計測,評価することは極めて重要であるため,これまでタイヤ形状を計測する方法が種々試みられてきた.例えば簡便な方法としてタイヤ表面に石膏を固めて型取りする方法や,レーザースリット光による光切断法などがあるが,これらは基本的には静的な状態での計測方法であり,また表面ひずみ計測も不可能である.そこで本報告では,フーリエ変換格子法と呼ばれる画像処理手法をタイヤ形状計測へ適用し,これまで困難であった動的状態でのタイヤ形状及び表面ひずみ計測を行なったので,その結果を報告する.

2 . 実験装置及び形状計算方法
2 .1 タイヤ形状計測システム及び実験装置
 図1にフラットベルト式コーナリング試験機に試験タイヤ及び計測装置を設置した例を示し,図2には本計測システムの概略図を示す.タイヤ接地面近傍のサイド部に柔軟性のある二次元格子を貼り,その変形を2 台のCCDカメラで撮影する(ステレオ画像).タイヤ転動時の場合にはその回転数に同期してストロボ発光を行い,あたかも静止したかのようにタイヤを撮影することができる.このステレオ画像を次に示すフーリエ変換格子法 (Fourier Transform Grid Method)を用いてワークステーションにより処理し,形状及び表面ひずみ分布を計算する.


Fig.1 Configuration of Measurement


Fig.2 Measurement system

2 .2 フーリエ変換格子法を用いた三次元形状計測(1)
 ステレオ法による三次元形状計測では,対象物を異なる2方向から撮影した2 枚の画像を用いる.物体の三次元空間内の1点が,観測された2 枚の画像上でのどの点に対応するかを求めることによって三角測量の原理により,その点の三次元座標(x,y,z)を求める.この方法では2 枚の画像において対応する点を正確に見つけることが必要である.TVそこで物体の変形に影響を及ぼさない柔軟性のある二次元格子を物体の表面に貼り付け,それを撮影することによって得られた画像に対してフーリエ変換格子法を適用する.それぞれの画像に対して二次元フーリエ変換を行い,各方向の1 次調和波を抽出し,得られたx,y 各方向の位相値分布を用いて対応点を決定する.すなわち,2 枚の画像において,x,y各方向のそれぞれの位相値が同じ値をもつ場所が対応する点となる.図3に示すように三次元空間内のある点Pに対応するそれぞれの画像内の座標値(P1及びP2)と撮影系の幾何学的な配置(カメラレンズの中心位置L1,L2 及び光軸O 〜L1,O 〜L2 )から,その三次元空間内における2本の直線l1,l2が得られ,その交点を計算することにより,点P の空間座標(x,y,z)が求まる.これを格子画像全面について行なえば物体の三次元形状を得ることができる.また,変形前後で点と点との対応が取れているため変位を微分することにより表面ひずみ分布を解析することもできる.画像処理のフローを図4に示す.
 尚,本計測法による測定精度は既知形状の物体との形状差で確認したところ差の絶対値の平均は0.12 mmであった.


Fig.3 Schematic explanation of stereo vision


Fig.4 Flow diagram of image processing

3 .1 静的負荷時計測結果
 先にのべたように,タイヤ断面形状は性能に深く関わっており,古くから有限要素法(FEM)によるシミュレーションが行われている.ここでは本計測法の適用例として,図5 に示すFEMタイヤモデルの検証を試みた.結果の比較は所定の空気圧に充填した場合と縦たわみを与えた場合の接地中心部のサイド部断面形状(図5のA−A$(BIt!K$G9T$J$C$?!% 図6に空気充填時形状の比較とタイヤに縦たわみを20 mm 与えた場合の形状の比較を示す.また,図7に空気充填前の形状(形状図は割愛)を初期形状として空気充填時及び,縦たわみを20 mm与えた場合の鉛直方向(Z方向)の表面ひずみの比較を示す.断面形状及び,表面ひずみはいずれも非常に良く一致しており,このFEMタイヤモデルの有効性が確認できた.


Fig.5 FEM tire model and condition


Fig.6 Sidewall contour at A-Asection


Fig.7 Z-directional Surface Strain at A-Asection

次に本計測法の応用として動的な計測を行なった結果を示す.
3 .2 動的負荷時計測結果
(1 )直進走行時
 図8に試験タイヤ(175/70R13)をドラム式回転試験機にて負荷荷重3kN ,空気圧200kPa ,転動速度0,50,100 km/h の条件で接地面近傍のサイド部の形状を計測した結果を示す.これも先と同様に接地中心部のサイド部断面形状で各条件における形状を比較する.速度が増加するにしたがい,遠心力によるトレッド部のリフティングのためサイド部が内側に変形しているのが判る.
 図9には荷重無負荷の形状(形状図は割愛)を初期形状として,各条件における前後方向(X 方向)の表面ひずみ分布を示す.速度の増加にしたがい,接地面側で引張りひずみの大きい領域が拡大していくのが判る.


Fig.8 Sidewall contour changing with speed


Fig.9 X-directional surface strain changing with speed

(2)定常コーナリング時
 表1に示す2種類の構造のタイヤを図1の試験装置を用いて定常コーナリング状態における試験タイヤ(225/50R16)のサイド部の変形計測を行なった.表1に示すようにtire Aはtire B に比べ剛性の高い構造となっている.試験条件は負荷荷重3.3kN,転動速度10 km/h 一定でスリップ角を0,2,4,8 °付与し,旋回外側に相当するサイド部の形状を計測した.

Table 1 Construction of Test Tire

 図10,図11にそれぞれのタイヤの各スリップ角におけるサイド部の三次元形状を示す.スリップ角が大きくなるにつれ,サイド部が旋回内側に相当する方向へ大きく変形している様子が判る.また,図12に各スリップ角におけるタイヤAとBの接地中心部の断面形状の比較を示す.直進走行時(スリップ角0°)では剛性の低いタイヤBがタイヤAより外側へ変形している.また,スリップ角を付与していくとタイヤBがタイヤAより旋回内側に相当する方向へ大きく変形しているのが判る.
 次に図13に直進状態(スリップ角0°)を初期形状として各スリップ角における形状から前後方向(X方向)の表面ひずみ分布を計算した結果を示す.剛性の低いタイヤBはタイヤAに比べスリップ角が増すにつれて引張りひずみレベルが大きくなっていることが判る.
 

4.まとめ
(1)フーリエ変換格子法を適用したタイヤ形状計測システムを構築した.
(2)本システムにより,これまで困難であった動的な状態におけるタイヤ形状及び表面ひずみ分布が容易に計測できるようになった.
(3)静的負荷及び,動的負荷時のタイヤ形状及び表面ひずみ分布を計測し,本システムの有効性を確認した.
 今後,本計測法を用いることにより,タイヤ変形及び表面ひずみとタイヤの各種性能の関連性を解析していきたい.

謝 辞
 本研究の遂行にあたり,和歌山大学森本吉春教授並びに同大学藤垣元治助手より御指導を賜り,ここに記して謝意を表します.

参考文献
(1) 森本 吉春ほか,材料試験技術,Vol.38,P40-46(1993)


Fig.10 3-D sidewall shapes changing with slip angle (tire A)


Fig.11 3-D sidewall shapes changing with slip angle (tire B)


Fig.12 Sidewall contour under cornering condition


Fig.13 X-directional surface strain under cornering condition


Last Updated July 13, 2001