モアレ干渉法による変位場計測
(IC パッケージの熱変形解析への応用)

新川 和夫(九大),東藤  貢(九大),森田 康之(九大院),山田 真士(九大院)

Measurement of Displacement Field by Moire Interferometry
(Application to Thermal Deformation Analysis of IC Packages)

Kazuo ARAKAWA, Mitsugu TODO, Yashuyuki MORITA, Shinji YAMADA
Kyushu University

Moiireinterferometry was utilized to experimentally determine the displacement fields in electronic packages.  The displacement fields due to thermal loading. i.e. thermal deformations, were measured in the two kinds of electronic packages, QFP (Quad Flat Package) and MCM (Multi Chip Module) . The displacement fields in these packages were also simulated by finite element analysis (FEA) to compare with the experimental results.

Key Words: MoireInterferometry, Displacement Fields, Electronic Packages, FEA

1.はじめに
 モアレ干渉法と呼ばれる計測法が Post(1)らにより開発され,種々の材料および構造物の微視的な変位分布の評価法としての応用が試みられている(2)〜(7).この手法では,単位ミリメートル当たり数百〜数千本からなる光回折格子を試料表面に転写し,レーザ光の干渉を利用して材料の変形によるモアレ縞を生じさせている.そのため材料や構造物の微視的変形を二次元的に観測できるばかりでなく,その分布を高精度で測定することが可能となる.また直交形の回折格子を用いることにより,異なる方向の変位分布を表す2種類のモアレ縞を同時に計測できるなどの多くの利点を有している.近年このような利点が注目され,電子デバイスへの応用に関する様々な試みがなされている.本報告では,モアレ干渉実験で必要な回折格子の作製法,干渉縞の発生原理,さらにその応用例として IC パッケージの熱変形の計測結果を示す.

2.モアレ干渉法の原理  
 モアレ干渉実験で必要な回折格子の作製法を Fig. 1 に示す.ここでは光源として,アルゴン・レーザ(Spectra Phisics 製, Model No.2020-5, 波長 l=514.5 nm)を使用した.Fig. 1 に示すようにホログラフィー乾板上に平行光 A, B を2方向より入射する.その入射角 2q  は干渉縞の周波数が F になるように設定する.干渉縞の記録後,乾板を現像・定着する (Figs. 2(a), (b) 参照).さらに乾燥を行うと Fig. 2(c) に示すように乾板上の感光乳剤に微視的な収縮が生じ,周波数 F のうねりが発生する.その乾板上に厚さ約 0.1 mm のアルミニウムを蒸着する (Fig. 2(d) 参照).その蒸着膜を Fig. 2(e), (f) に示すようにエポキシ系の接着剤を用いて試料表面に転写する.
 次にモアレ干渉縞の発生原理を示す.Fig. 3(a) に示すように試料表面に転写した回折格子に平行光 A, B を入射する.ただし入射角 a は次式を満足するように設定する.
 (1)
ここで F は回折格子の周波数,l はレーザ光の波長である.このとき1次の回折光 Ad, Bd はいずれも試料表面に垂直に現れる.すなわち試料が変形していないとき回折光 Ad, Bd はいずれも試料表面に平行な平面波となる.そのため回折光 Ad, Bd による干渉縞は生じない.しかし試料が変形すると回折格子の周波数 F に変化が生じる.それに伴い平行であった回折光 Ad, Bd の角度にずれが生じる.その結果,干渉縞が発生する (Fig. 3(b) 参照).

3.IC パッケージの熱変形計測
 IC パッケージは,半導体/酸化物/金属/樹脂など熱膨張係数の異なる多くの材料から構成されている.そのため IC 自身が発生する熱や周囲の温度変化により IC パッケージに変形が発生する.本研究ではその熱変形をモアレ干渉法により計測した.
 実験用の IC として,QFP (Quad Flat Package) と MCM (Multi Chip Module) の2種類を使用した.外形寸法は,QFP が 20 x 14 x 厚さ 3mm,MCM が 24 x 24 x 厚さ 4mm である.なお QFP には1個チップ,一方 MCM には3個のチップが内蔵されている.
 ここではチップと封止樹脂の熱膨張差による変形を明確にするため,以下の方法を用いてモアレ干渉計測を行った.(1)まず内蔵されているチップが表面に現れるまで封止樹脂を研磨した.(2)その研磨面に 1200本/mm の直交形の回折格子を転写した.(3)ただし転写は,100℃ 一定の恒温槽内で行った.そのため室温まで冷却した場合,転写された試料格子には 100℃ から 25℃ の室温までの温度差 DT=-75℃ に対応する熱変形が記録されている.(4)2ビーム法を用いて変形を計測した.なお直交方向の変位分布を計測する際には, 試料格子の角度を 90゜回転した.
 得られたモアレ干渉縞を Figs. 4, 5 に示す.ここで u 変位場は紙面上で左右方向,一方 v 変位場は上下方向の変位分布を表している.干渉縞は等変位分布を表わし,その間隔は約 417 nm の変位に対応する.ここではまず始めに Fig. 4 の計測結果について考察する.IC パッケージの中央に1個のチップが存在する場合,u 変位場はほぼ左右対称に,また v 変位場は上下対称に生じている.また熱膨張係数が比較的に小さいチップ上では粗な干渉縞,一方,熱膨張係数が大きい樹脂上では密な干渉縞が発生した.これは,熱変形がチップを中心に対称的に生じること,またチップより樹脂で大きな変形が生じることを意味している.さらにここで注目すべきことは,u 変位場ではチップの左右端,一方,v 変位場ではチップの上下端 の樹脂で干渉縞が密になっていることである.この結果は,チップ周辺の樹脂で大変形が生じること,とくに角部に変形が集中することを示唆している.
 前述のように Fig. 5 の MCM には大きさの異なる3個のチップが存在した.Fig. 4 の IC の結果と同様に,各チップでは粗の干渉縞,樹脂では密の干渉縞が発生した.また u, v 変位場ともチップの端部で干渉縞が密になっている.しかし樹脂を含む全体の干渉縞の分布状態は,Fig. 4 の単一チップの結果とは大きく異なっている.これは,3個のチップの存在により,変位分布が大きな影響を受けたことを示している.すなわちこの結果は,  MCM のように複数個のチップを内蔵させる場合,その大きさや配置により変形の状態が大きく変化することを示している.

4.有限要素法による解析
 有限要素法を用いて,上記 IC パッケージの熱変形解析を行った.ただしチップ,封止樹脂を線形弾性体と仮定し,Table 1 の材料定数を使用した.ここで CTE は熱膨張係数を表す.また簡単化のために平面応力状態を仮定し,3節点3角形要素で分割した.その要素数と節点数は,QFP では 776 と 423,MCM では 2020 と 1059 とした.得られた解析結果を Figs. 6, 7 に示す.ここで注目すべきことは,単純化を行ったにもかかわらず,解析結果が Figs. 4, 5 の変位分布をよく表現していることである.これは,計測面上での変位分布がチップの下部に存在するダイパッドやコネクタ−リードの影響を大きく受けないこと,また室温から 100℃ の温度範囲では弾性近似が可能であることを示唆している.

5.まとめ
 モアレ干渉法を応用して,2種類の IC パッケージの熱変形を計測した.また有限要素法を用いて,数値解析を行った.そして以下の結果を得た.
(1)パッケージ中央に単一チップが存在する場合: モアレ干渉縞は,チップを中心としてほぼ対称的に発生した.またチップでは粗の干渉縞,樹脂では密な干渉縞が生じた.すなわち熱膨張係数が小さいチップでは比較的に小さい変形が,一方,熱膨張係数の大きい樹脂においては大変形が発生した.変形はチップ周辺の樹脂,とくに角部で集中する可能性を示した.
(2)パッケージ内部に3個のチップが存在する場合: 各チップの変位分布は,上記の単一チップの場合とほぼ同様な結果を生じた.しかし樹脂を含む全体の変位分布の状態には大きな差が発生した.すなわち複数個のチップが存在することにより 変位分布が大きな影響を受けることを示した.
(3)有限要素解析との比較: 線形弾性体と仮定した解析結果は変位分布を比較的によく表現した.これは室温から 100℃ の温度範囲では弾性近似が可能であることを示している.

文 献
1) Post, D.  (Kobayashi, A.S. 編), Handbook on Experimental Mechanics  (1987), 314-387, Society for  Exp. Mech., Inc.
2) Post, D., Han, B. and Ifju, P., High Sensitivity Moire, Springer-Varlag (1994).
3) Arakawa, K., Drinnon, R.H. Jr., Kosai, M. and Kobayashi, A.S., Exp. Mech., 31-4 (1991), 306-309.
4) 新川,  Drinnon, R.H. Jr., Wang, F.X. and Kobayashi, A.S., 機論A編, 58-545 (1992), 59-63.
5) Du, J., Yon, J.H., Hawkins, N.M., Arakawa, K. and  Kobayashi, A.S., ACI Material Journal, 89-3 (1992), 252-258.
6) Arakawa, K., Ishiguma, M. and  Takahashi, K., Int. J. Fract., 66 (1994), 205-212.
7) Arakawa, K. and  Takahashi, K., Int. J. Fract., 86 (1997), 289-300.


Fig. 1.  Optical arrangement for producing specimen gratings


Fig. 2.  Steps in producing phase-type specimen gratings and replication process


Fig. 3.  Schematic diagrams of an interferometer


u-displacement                                     v-displacement
Fig.4.  Moire fringe patterns for QFP (one silicon tip)


   u-displacement                                  v-displacement
Fig.5.  Moire fringe pattern for MCM (three silicon tips)

Table 1.  Mechanical Properties for Silicon and Epoxy


 u-displacement                                          v-displacement
Fig. 6.  EEM analysis for QFP (one silicon tip)


u-displacement                                      v-displacement
Fig. 7.  EEM analysis for MCM (three silicon tips)


Last Updated July 13, 2001